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FULLFACT独自分析レポートAI実装2026年6月12日公開

日本企業AI実装ギャップ 2026

生成AIの個人利用経験は26.7%へ拡大する一方、職場で自身がAIを使う雇用者は8.4%、生成AIに限ると6.4%にとどまる。総務省・JILPT・IPA・OECD・米国国勢調査局などの一次情報を再分析し、日本企業のAI活用を「個人利用」「組織方針」「業務定着」の三層で読み解く独自分析レポート。

Executive Summary

生成AIは、すでに「一部の先進企業だけが試す技術」ではなくなった。総務省の調査では、日本の個人の生成AIサービス利用経験は2024年度に26.7%となり、2023年度の9.1%から約3倍に伸びた。一方で、JILPTの労働者調査では、職場で自身がAIを利用している雇用者は8.4%、生成AIに限ると6.4%にとどまる。

この差は、単なる利用率の遅れではない。個人としてAIに触れること、企業として活用方針を持つこと、実際の業務プロセスに組み込むことは、それぞれ別の取り組みである。日本企業の課題は「AIを知っているか」ではなく、「AIを業務で継続して使える状態にできているか」に移っている。

本レポートでは、総務省、JILPT、IPA、OECD、Eurostat、U.S. Census Bureau(米国国勢調査局)、シンガポールIMDAなどの一次情報を再分析し、日本企業のAI活用を「個人利用」「組織方針」「業務定着」の三層で整理した。結論は次の5点である。

  1. 個人利用は伸びているが、職場利用との間に大きな断絶がある。日本の個人生成AI利用経験は26.7%まで伸びたが、職場で自身がAIを使う雇用者は8.4%、生成AIは6.4%にとどまる。

  2. 組織方針の策定でも国際差が残る。日本企業で生成AIを「積極的に活用」または「領域を限定して利用」する方針の割合は49.7%。中国92.8%、米国84.8%、ドイツ76.4%と比べて低い。

  3. 日本国内でも規模差がある。生成AI活用方針を持つ割合は、大企業55.7%、中小企業34.3%。方針策定を担う法務・情報システム・人事などの体制の差が背景にあり、企業規模は実装ギャップを読み解くうえの一つのセグメントである。

  4. 試用から業務プロセス化への移行が弱い。IPAは、生成AIの「個人や部署での試験利用」「個人での業務利用」は日米独で高い一方、「部署の業務プロセスに組み込まれている」は日本が低いと整理している。

  5. 海外でも実装ギャップは残るが、先行国は実装条件に投資している。U.S. Census Bureauの2026年ワーキングペーパーでは、AI利用企業の57%は3つ以下の事業機能に限定しており、包括的に事業機能へ展開する企業は4%にすぎない。シンガポールでは、AI使用企業の今後1-2年の重点施策として、訓練・アップスキリング68%、職務・ワークフロー再設計63%、IT・データ基盤強化59%が挙がっている。

FULLFACTは、AI実装のボトルネックを「ツール不足」ではなく、経営判断、業務プロセス、人材・学習、ガバナンスが十分にかみ合っていない状態と捉える。企業が次に取り組むべきことは、AIツールを増やすことではない。対象業務、責任体制、利用データ、確認ルールを決め、現場で続けられる運用に落とすことである。


1. 本レポートの問題意識

生成AIをめぐる企業調査では、数字が大きく揺れる。ある調査では「生成AI利用者が急増」と示され、別の調査では「職場で使う人はまだ少ない」と示される。これは、どちらかが誤っているというより、測っている層が異なるためである。

企業のAI活用には、少なくとも三つの層がある。

第一に、個人利用または試用である。ChatGPT、Gemini、Copilot、Claudeなどに触れた経験、文章作成や検索、要約、翻訳などの個人タスクで使った経験がここに含まれる。これはAI活用の入口だが、業務プロセス化とは限らない。

第二に、組織方針である。生成AIをどの領域で使うか、どの情報を入力してよいか、どのリスクを許容するか、どの部門が責任を持つかを企業として定める。方針がなければ、現場利用は個人の裁量に依存しやすい。

第三に、業務定着である。AIが営業、顧客対応、経理、人事、研究開発、情報システム、品質管理などの業務プロセスに組み込まれ、継続的に使われる状態を指す。企業にとって生産性や品質の改善が期待できるのは、この第三層である。

日本企業のAI活用をめぐる議論では、この三層が混同されやすい。個人利用の伸びをもって「AI活用が進んだ」と見ると、組織方針や業務定着の遅れを見落とす。反対に、職場利用率だけを見て「日本はAIを使っていない」と断じると、急速に広がる個人利用や現場の潜在需要を見落とす。

本レポートの狙いは、AI利用率の単一ランキングを作ることではない。国内外の一次情報をAI実装の観点から再分類し、日本企業がどこで詰まりやすいのかを明らかにすることである。


2. 日本の現在地

2.1 個人利用は伸びている

総務省『令和7年版 情報通信白書』によれば、日本の個人の生成AIサービス利用経験は2024年度に26.7%となった。2023年度の9.1%から約3倍であり、生成AIに触れる人の裾野は急速に広がっている。

ただし、同じ調査で比較すると、日本の利用経験は米国68.8%、ドイツ59.2%、中国81.2%より低い。日本国内では伸びているが、国際比較ではまだ低位にある。

この数字は、総務省の個人利用が「業務や日常生活での利用経験」を含む点に注意して読む。つまり、この26.7%は、企業内でAIが業務プロセスに組み込まれている割合ではない。個人が一度でも生成AIサービスに触れた経験を含む入口指標である。

2.2 職場利用はまだ薄い

JILPT『AIの職場導入が働き方に及ぼす影響』では、全有効回答労働者22,000人のうち、勤め先企業全体でAIが使用されている雇用者は12.9%だった。そのうち、自身がAIを利用している雇用者は8.4%、自身が生成AIを利用している雇用者は6.4%である。

ここに、日本企業のAI実装ギャップが表れている。個人の生成AI利用経験は26.7%まで伸びている。しかし、職場で自身がAIを使う雇用者は8.4%、生成AIは6.4%にとどまる。個人利用から職場利用への移行は、まだ十分に進んでいない。

同調査では、2年前と比べてAI使用が拡大しているとの回答が57.9%にのぼる。また、今後10年以内に職場でAI利用が進展すると認識する割合は、労働者全体で55.6%、AI利用者では92.5%である。つまり、職場利用はまだ薄いが、方向としては拡大している。

職場利用は限定的だが、拡大方向にある。この局面では、現場の自発利用を放置するか、組織として業務フローに組み込むかで、その後の成果が分かれる。

2.3 組織方針でも国際差がある

総務省の同資料では、企業における生成AIの活用方針策定状況も示されている。日本企業で「積極的に活用する方針」と回答した割合は23.7%、「活用する領域を限定して利用する方針」は26.0%。合算すると49.7%である。

同じ合算で見ると、中国は92.8%、米国は84.8%、ドイツは76.4%である。日本は、個人利用だけでなく、組織として生成AIをどう扱うかという方針策定でも差が残っている。

組織方針は、業務定着そのものではない。しかし、業務定着の前提である。入力可能な情報、禁止情報、利用可能なツール、承認フロー、検証方法、責任分界が曖昧なままでは、現場は安心してAIを使えない。結果として、個人利用は増えても業務プロセスには組み込まれにくい。

2.4 規模別セグメントにも差がある

日本国内では、企業規模による差も明確である。総務省資料では、生成AIを活用する方針を持つ割合は、大企業で55.7%、中小企業で34.3%だった。

この差は、AIに対する関心の差だけではない。AI活用方針を作るには、法務、情報システム、セキュリティ、人事、業務部門の調整が求められる。規模の大きい企業ほど、責任部門や専門人材を置きやすい。一方、規模の小さい企業では、経営者や少数の管理部門が複数機能を兼務し、AIの方針策定まで手が回りにくい。

ただし、この規模差は、あくまで日本企業のAI実装ギャップを説明する一つのセグメントである。大企業にも、部門ごとのPoC止まり、現場利用のばらつき、ガバナンス不在、データ整備不足といった課題は存在する。


3. 試用から業務プロセス化への断絶

日本企業のAI活用を見るうえでは、「使っているか」だけでなく「どこまで業務に組み込まれているか」を併せて見る。

IPA『DX動向2025』は、日本・米国・ドイツ企業のDX推進状況を比較している。同資料では、生成AIの具体的な利用状況について、「個人や部署で試験利用している」「個人で業務利用している」は3カ国とも回答率が高い一方、「部署の業務プロセスに組み込まれている」は日本の回答率が低いと整理している。

これは、生成AI活用が「試す」「個人で使う」ところまでは進む一方、「部署の業務として標準化する」ところで止まりやすいことを示す。

業務プロセス化では、次のような設計を先に決める。

  1. 対象業務の選定
    どの業務にAIを入れるのか。文章作成、顧客対応、社内問い合わせ、提案書作成、データ分析、品質検査、採用、経理処理などのうち、どこから始めるのか。

  2. 業務フローの再設計
    AIが作業する工程、人が判断する工程、確認が必要な工程を分ける。既存業務をそのままにしてツールだけ追加しても、現場負荷が増える場合がある。

  3. データ整備
    社内文書、FAQ、CRM、SFA、会計データ、在庫データ、顧客対応履歴などをどこまで使える状態にするか。ここが弱いと、AIは一般論しか返せない。

  4. 評価指標
    時間削減、一次回答率、品質、ミス削減、顧客満足、売上貢献など、何を成果とするか。PoCで効果が出ても、KPIにひもづかなければ定着しにくい。

  5. 運用責任
    誰がプロンプトやナレッジを更新し、誰が出力品質を確認し、誰がリスクを監督するか。責任者不在のAI活用は、現場の自助努力に依存する。

個人利用と業務プロセス化の間には、これだけの設計項目がある。日本企業のAI実装ギャップは、ツール不足ではなく、この設計工程の不足として表れている。


4. 人材・学習のボトルネック

AI実装では、AI専門人材だけでなく、業務を理解し、AIの特性を踏まえて改善できる人材が欠かせない。

IPA『DX動向2025』では、DXを推進する人材の「量」について、日本企業は「やや不足している」「大幅に不足している」の合計が85.1%だった。米国とドイツでは「やや過剰である」「過不足はない」の合計がそれぞれ73.6%、52.5%であり、日本だけが強い不足感を示している。

人材の「質」でも差がある。DX推進人材の質について「過不足はない」と回答した企業は、日本3.8%、米国52.9%、ドイツ25.1%である。日本企業では、量と質の両面でDX推進人材が不足している。

JILPT調査でも、AIを利用しながら働くための学び直しに取り組んだ労働者は6.9%にとどまる。AIを学ぶためのリソースがあると回答した労働者は46.0%。AI使用企業の雇用者に対して、勤め先企業がAI利用のための訓練提供や資金援助を行ってきた割合は25.3%だった。

OECDのSME向けAI採用レポートでも、日本の生成AI利用SMEで、従業員がAI関連研修に参加している割合は11.3%にとどまる。カナダ29.4%、英国24.0%、ドイツ23.2%と比べても低い。

この状況では、AIを使いたい現場があっても、学習機会が不足し、業務化のための知識が蓄積しにくい。AI実装支援では、モデルやツールの説明だけでなく、業務側の人材がAIを使って仕事を変えられるようにする学習設計が要る。


5. ガバナンスは利用を止めるものではなく、広げる条件である

AIガバナンスという言葉は、しばしば「利用を制限するルール」として受け止められる。しかし、企業実装の観点では、ガバナンスは利用を広げるための条件である。

JILPT調査では、新しい技術が職場で使用される際、雇用主が労働者または労働者代表と話し合いを実施している割合は、全体で15.6%にとどまる。職場でAIが使用された場合に限っても32.0%であり、3分の2以上は「行っていない」または「わからない」と回答している。

OECDの日本レポートでは、日本の生成AI利用者のうち、内部ルールまたはガイドラインがあると回答した割合は34.8%だった。つまり、生成AIを使っている人でも、方針やルールが整っていない状態が珍しくない。

入力してよい情報が分からない、顧客情報を扱ってよいか分からない、出力の確認責任が分からない、誤回答時の責任分界が分からない。この状態では、現場はAIを使い続けにくい。結果として、使う人は個人の裁量で使い、慎重な人は使わないという分断が生まれる。

総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版のように、国内でもAIの安全性・透明性・ガバナンスに関する整理は進んでいる。企業側に求められるのは、ガイドラインの存在を知ることだけではなく、自社の業務に合わせて「使えるルール」に翻訳することである。


6. 国際比較から見えること

6.1 EUでも規模差と専門知識不足がボトルネック

Eurostatによれば、2025年にEUの10人以上企業でAI技術を使用している割合は19.95%だった。規模別では、大企業55.03%、中企業30.36%、小企業17.00%である。

AIを検討したが使用していない企業の理由を見ると、最も多いのは関連専門知識の不足70.89%であり、次いで法的影響の不明確さ52.52%、データ保護・プライバシー懸念48.83%だった。

これは、日本固有の話ではない。AI実装では、規模が小さい企業ほど専門知識、法務、プライバシー対応、データ管理の負担が大きくなる。日本企業が直面している課題は、世界的なAI実装課題の一部である。

ただし、日本では個人利用、組織方針、業務定着の各層が同時に薄いため、課題が重なって見える。

6.2 OECDは「コア業務実装」の薄さを示している

OECDのSME向けAI採用レポートでは、OECD全体で大企業のAI使用率は40%、小企業は11.9%とされる。大企業は小企業の3倍超である。

より注目すべきなのは、コア業務機能へのAI採用である。同レポートは、G7諸国における生産・サービス提供に関わるコア業務機能でのAI採用が2024年時点で10%未満にとどまると整理している。日本は1.9%、米国は6.1%である。

また、生成AIを使うSMEのうち、コア活動で使っている割合は29%にとどまる。生成AIは触りやすいが、企業の中核業務に深く入れるには、データ、業務設計、人材、資金への補完投資が求められる。

この論点は、日本企業にもそのまま当てはまる。生成AIの導入は、文章作成や要約から始まりやすい。しかし、企業価値に直結するのは、営業活動、顧客対応、開発、製造、財務、人事、法務、サプライチェーンなどの業務プロセスにどう組み込むかである。

6.3 米国でも「正式導入」と「現場利用」はズレる

U.S. Census Bureauの2026年ワーキングペーパー "The Microstructure of AI Diffusion" は、AI普及を企業導入、事業機能、労働者タスクの三層で測っている。

2025年11月から2026年1月の参照期間では、18%の米国企業が事業機能でAIを使用しており、雇用者加重では32%だった。6カ月以内には22%へ上昇すると見込まれている。

一方で、AI利用企業の57%はAIを3つ以下の事業機能に限定している。機能別では、営業・マーケティング52%、戦略・事業開発45%、IT41%が多い。包括的に複数機能へAIを展開している企業は、functional AI usersの4%にすぎない。

さらに興味深いのは、正式導入と現場利用のズレである。労働者がAIを使っている企業の36%では、正式な企業レベル導入の表示がない。反対に、正式な企業レベル導入がある企業の19%では、労働者タスクでの利用が確認されない。

つまり、米国でも「会社として入れたが現場が使っていない」「現場は使っているが会社として整備されていない」というズレが存在する。日本企業のAI実装ギャップを考えるうえでも、この二重のズレは重要である。

6.4 シンガポールは実装条件に投資している

シンガポールIMDAのSingapore Digital Economy Report 2024/2025によれば、SMEのAI採用率は2023年の4.2%から2024年の14.5%へ3倍超に伸びた。非SMEでも44.0%から62.5%へ上昇している。

同レポートでは、AI使用企業がAIをどのように深めようとしているかも示されている。今後1-2年の重点施策として、既存人材の訓練・アップスキリング68%、職務・ワークフロー再設計63%、IT・データ基盤とAI投資強化59%が挙げられている。

ここから読み取れるのは、AI採用を進める国・企業ほど、単にツールを導入するだけでなく、人材、職務設計、ワークフロー、IT・データ基盤に同時に投資しているということである。

日本企業がAI実装を進めるうえでも、同じ順序が参考になる。まずツールを選ぶのではなく、どの業務を変えるのか、その業務に使うデータは何か、現場の役割をどう変えるのか、どの学習支援を用意するのかを設計する。


7. FULLFACTのAI実装ギャップモデル

本レポートでは、日本企業のAI実装ギャップを四つの断絶として整理する。

7.1 方針化の断絶

個人や部署がAIを試していても、会社としての方針がない状態である。入力可能な情報、利用可能なツール、対象業務、責任者、検証方法が決まらないため、現場利用が個人裁量に閉じる。

方針化の断絶は、総務省の企業方針策定率に表れている。日本企業の合算49.7%は、米国84.8%、ドイツ76.4%、中国92.8%に比べて低い。まず、企業としてAIをどう扱うかを決める時点で差がある。

7.2 業務プロセス化の断絶

AIを試すことと、業務プロセスに組み込むことの間の断絶である。IPAが示すように、日本では「部署の業務プロセスに組み込まれている」状態が弱い。

この断絶は、PoC止まりの形で表れやすい。試験導入では効果が出ても、既存フロー、データ、責任体制、KPIにひもづかないままでは、通常業務に戻ったときに使われなくなる。

7.3 人材・学習の断絶

AIを使うための学習機会や業務側の変革人材が不足する状態である。IPAのDX人材不足85.1%、JILPTのAI学び直し6.9%、OECDの日本SME研修参加11.3%は、この断絶を示す。

AI実装には、専門エンジニアだけでなく、業務を分解し、AIが担う工程と人が担う工程を設計できる人材が必要である。ここが不足すると、AI活用は「詳しい人がいる部署」だけに偏る。

7.4 ガバナンス・安心の断絶

現場が安心してAIを使うためのルールや対話が不足する状態である。JILPT調査では、新技術導入時の話し合いは全体15.6%、AI使用職場でも32.0%にとどまる。OECDでは、日本の生成AI利用者のうち、内部ルール・ガイドラインがあると答えた割合は34.8%だった。

ガバナンスがないと、現場はリスクを恐れて使わないか、逆に個人裁量で使うかに分かれる。利用を広げるには、禁止事項だけでなく、どの条件なら使えるのか、どう確認すればよいのかを明確にする。


8. 企業への示唆

日本企業がAI実装を進めるうえで、最初に決めるべきことは「どのAIツールを入れるか」ではない。対象業務、使うデータ、責任者、確認ルールを先に決める。

本レポートの分析から見ると、AI実装の初動は、全社一斉導入でも、大規模なAI人材育成でも、ツール比較表の作成でもない。まずは、経営課題に近く、現場データが存在し、成果を測りやすい業務を一つ選び、「使える業務フロー」まで落とすことが出発点になる。

8.1 まず確認すべき五つの問い

  1. どの事業課題にAIを使うのか

    売上、粗利、顧客対応速度、採用、開発、品質、経理、人材育成など、経営上のどの課題にひもづけるのかを決める。AI活用テーマを「生成AIを使う」ではなく、「問い合わせ一次回答時間を短縮する」「提案書作成時間を減らす」「経理確認の手戻りを減らす」のように業務成果で定義する。

  2. どの業務プロセスを変えるのか

    既存業務を棚卸しし、AIが担う工程、人が判断する工程、確認が必要な工程を分ける。AIを既存業務に上乗せするのではなく、業務フローそのものを軽くする。

  3. どのデータを使える状態にするのか

    AIは、社内データや業務文脈を参照できなければ一般論にとどまる。文書、FAQ、CRM、会計、問い合わせ履歴などを使える状態にしておく。

  4. 誰が運用責任を持つのか

    PoCの担当者と本番運用の責任者が異なると、定着しにくい。改善、監査、教育、問い合わせ対応の役割を先に決める。

  5. どのルールなら現場が安心して使えるのか

    入力禁止情報、出力確認、ログ管理、外部共有、顧客説明、例外対応を明確にする。ルールは利用を止めるためだけでなく、安心して広げるために置く。

8.2 初動でやること

AI実装の初動は、全社展開を目指す場面ではない。自社にとってAIが業務改善に役立つかを、限定された範囲で検証し、拡張可能な型を作る場面である。

順序やること成果物
課題を選ぶ売上、対応速度、工数削減、品質改善など、AI活用の目的を業務成果で定義する。AI実装テーマ
業務を棚卸しする対象部門の反復業務を分解し、頻度、工数、データ有無、リスク、成果指標で並べる。業務棚卸し表
優先業務を絞る低リスクで早く効果が出る業務と、事業インパクトが大きい業務を分ける。優先業務リスト
運用設計を作るAIが担う工程、人が判断する工程、確認者、入力禁止情報、利用データを決める。最小業務フローと利用ルール
小さく運用して判断する実業務で限定運用し、導入前後の工数、品質、手戻り、現場負荷を測る。継続・停止・拡張判断

この初動では、AIの性能そのものだけでなく、AIを組み込んだ業務が継続運用できるかを確認する。PoCでよい出力が出たとしても、確認者、更新者、責任者、評価指標がなければ実装とは言えない。

8.3 最初に選びやすい業務領域

最初の対象業務は、AIの技術的難易度よりも、データの所在、現場の反復頻度、確認責任の置きやすさで選ぶべきである。以下は、初動で検討しやすい業務領域である。

領域最初に扱いやすい業務確認すべき前提
営業商談メモ整理、提案書ドラフト、顧客別FAQ、CRM入力補助営業資料、商談履歴、商品情報、承認フローがあるか
カスタマーサポート問い合わせ分類、一次回答案、FAQ更新、エスカレーション判断問い合わせ履歴、FAQ、禁止回答、確認者があるか
管理部門請求・経費確認、社内問い合わせ、契約書の一次確認文書テンプレート、例外処理、個人情報の扱いが明確か
人事求人票作成、面接質問案、オンボーディングFAQ、研修資料作成採用基準、評価基準、個人情報の利用範囲が明確か
企画・経営管理市場情報の要約、競合整理、会議資料ドラフト、KPIレビュー出典確認、意思決定者、数値データの正確性確認があるか

この中で、最初の候補として扱いやすいのは、顧客対応、営業資料作成、社内問い合わせ、会議資料作成である。理由は、既存データが比較的存在し、成果を時間削減や品質改善として測りやすく、人間による確認工程を置きやすいからである。

8.4 やってはいけない始め方

AI実装で失敗しやすいのは、最初から全社展開を掲げること、ツール比較だけに時間を使うこと、全社員向けの一般研修だけで終えること、ガイドラインを禁止事項だけで作ること、PoCの成功を本番運用の成功と混同することである。

特に避けるべきなのは、「まず全社員に生成AIを使わせる」という始め方である。個人利用は増えるが、業務プロセス、データ、責任体制、評価指標にひもづかなければ、利用は散発的になり、成果が測れない。AI実装の初動では、利用者数よりも、業務フローに組み込まれた利用場面の数を重視すべきである。

AI実装は、技術導入であると同時に、業務設計、組織設計、人材育成、ガバナンス設計である。FULLFACTが見る限り、成果が出る企業は、AIを「便利なツール」としてではなく、「業務オペレーションを見直すきっかけ」として扱っている。


9. FULLFACT代表コメント

生成AIの導入は、ツールを入れるかどうかの議論から、経営が決めた方針を現場の業務フローにどう落とすかの議論に移っています。今回の分析は、企業規模や部門を問わず、AI活用を実装へ進めるうえで確認すべき論点を整理したものです。

個人としてAIに触れる人は増えています。しかし、会社としての方針、業務プロセス、学習機会、ガバナンスがそろわなければ、AIは現場に定着しません。FULLFACTは、AIツールの導入そのものではなく、業務と組織にAIを組み込む設計を支援していきます。

株式会社FULLFACT
代表取締役 足達彩人


10. 相談窓口

FULLFACTでは、本レポートで整理した観点をもとに、AI実装で最初に扱う業務、利用できるデータ、責任体制、確認ルールを整理する無料顧問制度を10枠限定で案内しています。必要に応じて、業務・データ・組織体制を確認するAI実装診断も活用できます。

主導線: 10枠限定・無料顧問制度で相談する
副導線: AI実装診断について相談する


調査概要

調査名: 日本企業AI実装ギャップ 2026
分析主体: 株式会社FULLFACT
分析方法: 公開統計、公的資料、国際機関レポート、政府機関調査の再分析
対象資料: 総務省、JILPT、IPA、OECD、Eurostat、U.S. Census Bureau、IMDA、総務省・経済産業省資料等
公開日: 2026年6月12日
注意事項: 各調査は対象国、母集団、調査時点、設問定義が異なるため、数値は同一母集団のファネルとしてではなく、AI実装の進み方を読み解く比較材料として扱う。


主要出典

  1. 総務省『令和7年版 情報通信白書 概要資料』
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/summary/summary01.pdf

  2. 労働政策研究・研修機構『AIの職場導入が働き方に及ぼす影響』調査シリーズ No.256
    https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/256.html

  3. OECD, Artificial Intelligence and the Labour Market in Japan
    https://www.oecd.org/en/publications/artificial-intelligence-and-the-labour-market-in-japan_b825563e-en/full-report.html

  4. IPA『DX動向2025』
    https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html

  5. Eurostat, Use of artificial intelligence in enterprises
    https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Use_of_artificial_intelligence_in_enterprises

  6. OECD, AI adoption by small and medium-sized enterprises
    https://www.oecd.org/en/publications/ai-adoption-by-small-and-medium-sized-enterprises_426399c1-en.html

  7. U.S. Census Bureau, The Microstructure of AI Diffusion
    https://www.census.gov/library/working-papers/2026/adrm/CES-WP-26-25.html

  8. IMDA, Singapore Digital Economy Report 2024/2025
    https://www.imda.gov.sg/resources/press-releases-factsheets-and-speeches/factsheets/2024/ar-sgde-2024

  9. 総務省・経済産業省『AI事業者ガイドライン 第1.2版』
    https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20260331_report.html

本レポートは、公開統計・公的資料・国際機関等の一次情報を FULLFACTが再分析した独自分析レポートです。引用・転載の際は 「出典: 株式会社FULLFACT『日本企業AI実装ギャップ 2026』」と明記のうえ、 本ページへのリンクを掲載してください。
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